発表論文
エッセイ
「科学」と「学習」の休刊について思うこと
水島昇 成人病の病因・病態の解明に関する研究助成「15周年寄稿集」 (2010)より転載
小学生時代、学研の「科学」と「学習」の愛読者だった人は多いと思います。私もその一人で、毎月これらが届いた日はわくわくする気持ちで袋を開けていました。特にその付録の数々は実に良くできており、それを欲しさに購読を続けていたように記憶しています。私が小学校を卒業した1979年には、1年生から6年生までの合計で約600万部販売されたそうなので、まさに知らない人はいないという状況だったと思います。今でも友人や家族との会話でもそれらの付録が話題になることもあります。私のお気に入りの一つは、石膏で作る立体日本地図でした。高低差のついた日本地図の型に石膏を流して、固まったところで取り出すという単純なものです。気に入った理由はおそらく二つで、石膏があれば何個でも作れるというとても豊かな気持ちになれたことと、真っ白い立体地図に創造心をかき立てられたことだと思います。それぞれの山が何かを調べたり、その高さを比べたりするだけで十分に楽しかったわけです。
昨年(2009年)12月上旬、その「学習」と「科学」が休刊になるとのニュースが突然入りました。発行部数が極端に落ちていると聞いてはいましたが、まさかあの「学習」と「科学」が休刊になるとは思いもかけないことでした。あんなにも楽しかったものが姿を消すことになったのは残念としか言いようがありません。インターネットが全盛期の時代やむを得ないのかも知れません。PL法の影響もあって、とても安全なものしか付録に付けられなくなったのもひとつの理由と聞いています。
先日この件である出版関係の方とお話しする機会がありました。その方が言うには、最近の子供向け科学雑誌は説明しすぎるそうです。最後まで読むとだいたいわかって満足してしまい、謎が残らないというのです。その点、昔の「科学」と「学習」はそこまで全ては説明しなかったそうです。確かに、ある程度のところで終わっていて、あとは自分で遊び方を考えたり、蟻を捕まえてきて蟻の巣を作ったりというのが多かったようにも思います。これは教員であり研究者である私にも実は耳の痛い話です。講義やセミナーでも何がわかっているかを紹介するより、何がわかっていないかについて議論する方がはるかにむずかしいわけです。しかし、学生にとって本当に大事なのは後者なのでしょう。私自身も、自分には何が不思議で、かつ何がわかっていないかということを常に問い続けていかなければならないと思います。「科学」と「学習」に育てられたものとして、その極意をなんとか身につけたいものです。