最近の論文発表(原著)
眼の水晶体が透明になる仕組みの解明 ~新たな細胞内分解システムの発見~ (森下, et al., Nature)
2021年04月15日 最近の論文発表(原著)
Hideaki Morishita*, Tomoya Eguchi, Satoshi Tsukamoto, Yuriko Sakamaki, Satoru Takahashi, Chieko Saito, Ikuko Koyama-Honda, Noboru Mizushima* (*co-corresponding authors)
Organelle degradation in the lens by PLAAT phospholipases
Nature, 14 April 2021 DOI: 10.1038/s41586-021-03439-w
眼の水晶体を構成する細胞の最終分化過程では、核、ミトコンドリア、小胞体などの膜で包まれた細胞小器官が分解されることが古くから知られていますが、その分子機構や生理的意義はほとんど解明されていませんでした。通常の細胞では、細胞小器官は主としてオートファジーによって分解されますが、水晶体細胞ではオートファジーによらないことがわかっていました。
今回私たちは、生きたままのゼブラフィッシュの水晶体で、細胞小器官が分解される様子を捉えることに成功しました。さらに、小胞体、ミトコンドリア、リソソームなどの細胞小器官が、サイトゾルに存在するリン脂質分解酵素(PLAATファミリーホスホリパーゼA [ゼブラフィッシュではPlaat1/Hrasls, マウスではPLAAT3/HRASLS3/PLA2G16])によって分解されることを明らかにしました。さらにこれらの酵素は普段はサイトゾルに存在しており、細胞小器官の分解直前にそれらの膜へ移行すること、ミトコンドリアやリソソームの膜が部分的に損傷を受けるとPlaat1が膜に移行することもわかりました。この膜の部分的損傷およびPlaat1の膜移行には、水晶体の発生に必要な転写調節因子Hsf4が必要であることも明らかになりました。この新しい細胞小器官分解システムは、ゼブラフィッシュ、マウスのいずれでも水晶体の透明化に必要であることがわかりました。本研究成果は、水晶体の透明化の新たなメカニズムを解明するとともに、細胞内分解システムの多様性の理解につながると考えられます。