最近の論文発表(原著)

オートファジーによる神経細胞内浄化の意義の解明(原 et al., Nature)

2006年06月15日 最近の論文発表(原著)

Hara, T., Nakamura, K., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakahara, Y., Suzuki-Migishima, R. Yokoyama, M., Mishima, K., Saito, I., Okano, H., Mizushima, N.
Suppression of basal autophagy in neural cells causes neurodegenerative disease in mice.
Nature, 2006 Jun 15;441(7095):885-9 DOI: 10.1038/nature04724

オートファジーは細胞内の大規模な分解機構です。 オートファジーの代表的役割としては、栄養が不足した時に細胞が自身の一部を分解することで栄養素を自給自足することが知られていました。今回は、オート ファジーによる絶え間ない細胞内新陳代謝が、神経細胞内を常に新鮮な状態に保ち、その機能を保障していることを明らかにしました。
今回私たちは、神経系細胞のみでオートファジーの能力を欠如するマウスを作製して、解析しました。このマウスはほぼ正常に生まれてきますが、徐々に神経細 胞内に異常タンパク質が蓄積し、神経細胞の一部は変性・脱落することが明らかになりました。生後4週目頃からは進行性の運動障害も観察されるようになりま した。これらの研究結果は、オートファジーが実際に神経細胞内の掃除屋として極めて重要であり、それによって神経変性を日常的に防止していることをはじめ て動物実験で示したものです。細胞内に異常タンパク質が蓄積するということは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの神経変性疾患に共通する特徴 のひとつでもあります。今回の成果はこれらの疾患の病態形成や治療戦略に新たな視点を与えるものであると考えられます。


今回の研究成果の概要とオートファジーによる細胞内浄化のモデル

正常な状態ではオートファジーは細胞内全体に存在する正常タンパク質や異常タンパク質を原則として非選択的に分解しています。異常タンパク質はユビキチン化され、通常は直ちにプロテアソームで分解されます。 しかし、オートファジーの活性が抑制されると、タンパク質の代謝が阻害されるために異常タンパク質が増加し、その一部は凝集体として細胞内に蓄積します。 神経特異的にオートファジーの能力を欠いたマウスは、このような異常タンパク質が神経細胞内に蓄積するために神経変性を生じ、さまざまな行動異常を呈するようになります。

より専門的な解説

オートファジーによる細胞内浄化作用の意義を調べる目的で、全身でオートファジーが不能となるAtg5ノックアウトマウス新生児を用いて、異常タンパク質 の指標としてユビキチン化タンパク質の蓄積を調べた。その結果、神経細胞と肝細胞で著しいユビキチン化タンパク質の蓄積が観察された。従って、オートファ ジーによる細胞内浄化作用は神経細胞と肝細胞で特に重要であると考えられた。
全身性のAtg5ノックアウトマウスは生後1日以内に死亡してしまうため、次に私達は神経系でのみオートファジーが不能となるマウス(神経特異的Atg5 ノックアウトマウス)を作製・解析した。このマウスは生後も生育するが、生後1ヶ月という早い時期から歩行障害や異常反射などの運動障害を呈するように なった。組織観察からは、小脳プルキンエ細胞や大脳皮質の錐体細胞の部分的脱落、多くの領域での神経軸索腫大などの異常が観察された。
さらにユビキチン化タンパク質の蓄積を調べたところ、脳のほぼすべての領域で細胞質全体に徐々にユビキチン陽性タンパク質が蓄積し、さらに一部ではそれら 異常タンパク質が二次的に凝集していることが明らかとなった。これらのことより、オートファジーによる分解は日常的な原則として非選択的な細胞内全体のタ ンパク質の新陳代謝を担っており(凝集体の特異的除去ではなく)、これが阻害されると細胞内に変性したタンパク質が蓄積し、さらには凝集が引き起こされる と考えられる。
従来、このような細胞内品質管理はユビキチン・プロテアソーム系によって行われると考えられてきたが、オートファジーによる協調的作用も重要であることが明らかになった。

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