最近の論文発表(原著)
オートファゴソーム形成の膜変形ダイナミクスの数理モデル(境 et al., iScience)
2020年09月04日 最近の論文発表(原著)
Yuji Sakai, Ikuko Koyama-Honda, Masashi Tachikawa, Roland L. Knorr, Noboru Mizushima
Modeling morphological change during autophagosome formation
iScience, 2020, Sept 25 DOI: 10.1016/j.isci.2020.101466
オートファジーにおいて、オートファゴソーム形成は膜の大規模な形態変化を伴う現象です。その変化は極めてユニークで、隔離膜といわれる扁平なディスク状の小胞が、成長とともにカップ状に弯曲し、最後にカップの口が閉じて球状のオートファゴソームが形成されます。多くのオートファジー関連因子はこのオートファゴソーム形成過程に関与してお り、隔離膜の形態変化はこれらの因子により制御されていると考えられます。しかし、どのような物理機構により隔離膜の形態変化が制御されているのかは謎のままでした。
私たちは、曲率因子による隔離膜の形態制御の数理モデルを構築し、オートファゴソーム形成における隔離膜の形態変化を解析しました。その結果、隔離膜成長とともに曲率因子の膜上分布が自発的に変化することで、隔離膜の一連の形態変化を理解できることを示しました(図1)。
この数理モデルは、実際に細胞内で観測されるオートファゴソーム形成時の隔離膜変形を定量的に説明します。さらに、オートファゴソームの大きさは曲率因子量によって制御されていることを予測します。
本研究成果は、一見複雑に見えるオートファジーの膜動態が、単純な物理機構に基づく数理モデルによる解析が有効であることを示唆しています。今後、膜動態の計測とそれに基づく数理解析とを組み合わせることで、オートファジー動態の制御機構について統合的な理解が進むことが予想されます。
曲率因子は、高曲率なリム領域に局在することで膜の弾性曲率エネルギーを下げ、リム領域を安定化させる。一方で、曲率因子の局在は混合エントロピーエネルギーを増大させる。膜の弾性曲率と曲率因子の分布の結果として、安定な膜の形態が決定される。隔離膜の膜面積増加とともに曲率因子の分布が変化し、ディスク、カップ、球の連続的な形態変化が実現される。