最近の論文発表(原著)
神経特異的Atg5レスキューマウスを用いた全身網羅的解析(吉井、久万 et al., Dev Cell)
2016年10月10日 最近の論文発表(原著)
Saori R. Yoshii*, Akiko Kuma* (*equally contributed), Takumi Akashi, Taichi Hara, Atsushi Yamamoto, Yoshitaka Kurikawa, Eisuke Itakura, Satoshi Tsukamoto, Hiroshi Shitara, Yoshinobu Eishi, Noboru Mizushima.
Systemic Analysis of Atg5-Null Mice Rescued from Neonatal Lethality by Transgenic ATG5 Expression in Neurons.
Dev Cell, 2016 Oct 10 DOI: 10.1016/j.devcel.2016.09.001
オートファジー遺伝子Atg5欠損マウスは外見ほぼ正常に生まれますが、生後1日で死亡します。このマウスは母乳を飲むことができないという異常(吸啜障害)がありますが、母乳を飲まない条件で比較しても野生型マウスよりも早く死亡します。解析の結果、出生に伴うオートファジーが栄養供給(アミノ酸レベルの維持)に重要であることが分かりました(Kuma et al. Nature 2004)。しかし、Atg5欠損マウスの死因について不明のままでした。今回私たちは、Atg5欠損マウスが神経異常による吸啜障害を呈している可能性を疑い、Atg5欠損マウスの神経細胞にのみAtg5遺伝子を再導入したマウスを作製しました(神経特異的Atg5レスキューマウス)。その結果、従来、生後1日で死亡したAtg5欠損マウスが成獣まで生存できるようになりました。よって、Atg5欠損マウスの新生仔期における死因は神経異常にあったことがわかりました。私たちの以前の研究結果と合わせて考えますと、Atg5欠損マウスは神経異常による吸啜障害のために飢餓状態が続き、かつ、出生に伴うオートファジーによる栄養供給もない、という2つの理由によって重篤な栄養不足状態となり、早期死亡に至ると考えられます。
この神経特異的Atg5レスキューマウスが新生仔期の死亡を回避して成獣まで育つことから、全身(神経以外)のAtg5欠損による影響を成獣で解析することが可能となりました。全身観察の結果、このマウスは鉄吸収不全による貧血や性ホルモン低下を伴う性腺委縮を呈することが分かりました。この新しいマウスモデルから得られた知見は、今後、オートファジーの生理機能の理解に役立つことが期待されます。