最近の論文発表(原著)

哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明(塚本 et al., Science)

2008年07月04日 最近の論文発表(原著)

Tsukamoto, S., Kuma, A., Murakami, M., Kishi, C., Yamamoto, A., Mizushima, N.
Autophagy is essential for preimplantation development of mouse embryos.
Science, 2008 Jul 4;321(5885):117-20 DOI: 10.1126/science.1154822

オートファジーは細胞内の大規模なタンパク質分解(リサイクル)機構です。これまで知られているオートファジーの代表的役割として、(1)絶食などで栄養 が不足した時に、細胞が自身の一部を分解することで栄養素を自給自足すること、(2)細胞内を少しずつ入れ替えることによって、有害なタンパク質などが蓄 積しないよう浄化すること――などが挙げられます。
今回私たちは、(1)受精直後のマウスの胚でオートファジーが活発となること、(2)マウスの受精卵(胚)でオートファジーが機能しないと、4-8細胞期 胚で発生が停止して致死となることを見いだしました。これらの結果は、卵細胞内に蓄えられていた母親由来のたんぱく質をオートファジーによって分解するこ とが、初期胚の栄養獲得に重要であることを示しています。魚や鳥の卵と異なりほとんど栄養を持っていないようにみえる哺乳類の卵も、実は自身の細胞質を分 解して栄養素を獲得していたと言えます。


図1:未受精卵(左)と受精後0.5日目の胚(右)のオートファゴソーム

オートファゴソームが蛍光標識されるGFP-LC3マウスから採取した未受精卵と受精卵。受精後に生じる多数の小さな輝点ががオートファゴソームを示します。受精後にオートファジーが活性化され、受精卵のタンパク質が分解されている様子がわかります。

図2:今回の研究成果のまとめ

受精後2細胞期胚頃より母親由来のタンパク質の分解が始まり、徐々に胚ゲノムに由来するタンパク質に入れ替わります。それに先立ち、受精後4時間目頃より オートファジーが活発化し、これが母性タンパク質の分解の重要な機構となります。卵特異的Atg5ノックアウトマウスを利用してこの時期のオートファジー を抑制すると、4-8細胞期胚の段階で発生が停止して致死となります(図中の†)。これは、胚性タンパク質の合成に必要なアミノ酸が、母性タンパク質の分 解によって確保できないためと考えられます。

よりくわしい解説

受精直後、卵子内の母親由来のタンパク質は急速に分解され、受精卵のゲノムに由来する新しいタンパク質と入れ替わることが知られています。私たちは今回、 マウスの受精卵を用いて、受精後4時間以内にオートファジーが非常に活性化することを見いだしました(図1)。そこで、この発生初期に起こるオートファ ジーの役割を調べるために、卵子でオートファジーが起こらないようにしたマウス(卵特異的Atg5ノックアウトマウス)を作製しました。このマウスでは卵 子は正常に作られ、排卵、受精も正常に行われました。しかし、受精後にオートファジーによるタンパク質分解が起こらず、結果として着床に至る前に発生が止 まり、死んでしまいました(正確な時期は、受精後2.5日頃の4~8細胞期です=図2)。このような胚では、新しいたんぱく質の合成量が減少していたた め、栄養不足状態にあったと推測されます。

以上の実験結果から、受精直後にオートファジーが活性化されることで受精卵の母性タンパク質が大規模に分解され、それによってこの時期の新規タンパク質合成に必要なアミノ酸が確保されていると考えられます。

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